うさぎ
だけど、隆之が私を振り返ることは一度もなかった。

夕暮れの町に、隆之の姿が消えていく。

私は隆之が頭にかけてくれたタオルを抱き締める。

石鹸の匂いがかすかにした。





「――隆之…!」





私は堪えることができず、その場にしゃがみこんで泣いてしまった。












その日の夜。

私は風呂からあがると、真っ先に美和に電話した。

今日の事を、伝えるように昼休みに命令されていたから。

「もしもーし」

かけて数秒で美和につながる。

私は、美和の声を聞いたらまた泣きそうになって必死に堪えた。

「真於、どうだった?隆之。真於の事覚えてた?」

何も知らない美和が、無邪気に聞いてくる。

思い出すと、自然にポロリと涙がこぼれた。
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