ロボットな同僚
桜吹雪の舞い散る中。
私はあの人に――恋をした。



「これ。
発注かけといて」

「はい」

私にカタログを渡し、彼は慌ただしくジャケットを羽織った。

「出てくるから。
なんかあったら携帯」

「はい」

ビジネスバッグに書類をねじ込み、彼は長い足でホワイトボードまで移動する。
書かれた行き先は契約間近の得意先の名前。

「じゃ、行ってくる」

くいっ、大きな手で覆うように彼が黒縁ハーフリム眼鏡をあげ、レンズがきらりと光った。

「いってらっしゃい」

はぁーっ、彼がいなくなり、ため息が落ちる。

これ、発注かけといて?
いいけどさ、この付箋の数はいったいなに?

心の中でぶちぶち文句を言いながら、カタログを開く。
対象商品には丸と数が記入してある。
今朝、得意先と電話で打ち合わせをしていたし、たぶんその件。

「いいけどさ」

発注画面を開き、商品番号と数を入力していく。
この量だとかなり時間がかかりそうだけど……あ、納品日聞くの忘れた。

「電話……」

は、したくない。
NYAINでいいか。

画面を切り替えようとして、ページの間になにか挟んであるの気づいた。

【納品日 四月十日
『ミキノカンパニー』 キャンペーン分】

あ、そういうこと。

仕事ができる男はやることが違う。
いや、挟んであるなら先に言って。
納品日はまだ先だから、今日の締め切りまでに間に合わせる必要はない。
とりあえずコーヒーでも入れてこようと思ったんだけど……。

――ポン。

パソコンが、メッセージの通知を告げる。
こわごわ振り返り、画面を確認した。

【四つ葉さんから注文書が入ると思うから、至急で手配して】

出先の彼からのメッセージが画面に表示されている。
見なかったことにしてやっぱりコーヒーを入れてこようと一歩踏み出しかけたものの。

――ピン。

再び、パソコンが通知音を立てる。
今度はメールが到着しましたとポップアップが上がっていた。

「コーヒーくらい入れてこさせてよ……」

椅子に座らず、中腰のままマウスを操作する。
彼の予告通り届いた四つ葉さんからの注文書は大量、だった。
しかも納品日的に今日の出荷に間に合わせないとマズい。

「コーヒー、無理だ……」

しょんぼり萎れて椅子に座り直し、一度深呼吸。
顔を上げ、猛然とキーを叩き出した。
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