光りの中
「あん時のチビか……」

「やっと思い出した?」

「ああ。しっかし、チビでへちゃやったガキがなあ……名前何て言うんや?」

「ノリコ……」


 犯された後にも関わらず、二人の間の空気は和んだものになっていた。

 様子が判らず離れた場所で、自分達にもひょっとしたらおこぼれが来るかと思っていた男達は、拍子抜けして遠目に二人を眺めていた。


「ノリコ、俺の女にならへんか……」

「逆やん。あんたがアタシの男にしてくれって言い」

 男は腹を抱えて笑い始めた。

 つられて紀子も笑い出した。

「おもろい女やな。俺、カツヤっていうんや」

「知っとるよ」

「そっかぁ……じゃあ、俺をお前の男にしろ」

「言葉が間違えとるよ。して下さいやろ」

 再び二人の間に笑い声が出た。



 紀子は自分でも驚いていた。

 近所の誰もがある種の畏れを持って触らぬようにしていた男に、このように思ったままの言葉を言える自分。

 作った自分ではなく、全てが自然のままの自分。


 アタシって……


 男と笑いながらも、ふとそんな事を考えていた。




 紀子にとっての絶対的男性像は、父親であった。

 紀子の家庭は地元でも名の知れた裕福な家だった。

 輸入代理業で財を成した父は、家庭の中では絶対君主であった。

 小さな頃からそういう父親の背中を見て育っていた紀子にとって、男の在るべき姿は目の前の父親でしかなかった。

 その父親が、紀子を目の中に入れても痛くない程に可愛がってくれた。

 絶対君主のような父親が、自分と二人だけの時になると、すっかり威厳をなくしてしまう。

 父親の懐に抱かれている瞬間が最高に幸福であった。

 カツヤに似たような感覚を紀子は感じた。


 カツヤとの仲が周囲に知れると、世間が自分を見る目が変わったと肌で感じた。

 具体的にどう変わったとかは上手く言えないが、本能では敏感に受け止めていた。





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