光りの中
 殻が割れた。

 というより、本当の紀子が現れたと表現した方が当たっていたかも知れない。

 会社経営をしている父を親に持ち、裕福な家庭に育った彼女は、幼い頃から厳しく躾られていた。

 一見、金持ちで何でも手に入る環境に育った彼女だったから、自由奔放に我が儘し放題と誰もが想像しがちだが、実際にはその逆だった。

 自分を余り目立たないようにさせる……

 そんな事にばかり気を使う子供だった。

 初めて異性と肌を合わせ、初めて異性と付き合った事で、紀子の他人への意識が変わった。

 畏れなくなった。

 男というものの存在が、紀子の目を外に向けさせた。

 というより、自分自身の存在感を伝えようと意識するようになった。

 他人に見られる事、目立つ事を畏れていた少女が、自ら他人の視線の中へと飛び込むようになった。

 ある日、そんな紀子を見て、


「紀子、あんた随分と派手になって来たんちゃう?」

 と母親に言われた。

「派手って、別に化粧もしとらへんし、着てるもんかて、ママが買ってくれてるもんしか着てへえねんで。何処が派手なん?」

「何処が言われてもなあ……。雰囲気いうんか……とにかく、ここんとこ近所の人からも、ノリちゃん最近余り評判の良くない子達と付きおうとるって噂もしとるし……」

「そんなん近所の噂なんか鵜呑みにせんと、放っとき」


 それ迄の紀子からは想像出来ない言葉が返って来た。

 紀子の通う学校は、割と裕福な家庭の子が多く通う私学だ。

 中高一貫教育で、近々短大も出来るらしい。

 一応、高等部へ進学する為の試験はあるが、中等部からの在学生は殆ど進学出来る。

 受験とは無縁のまま、紀子は高等部に入った。

 そして、紀子の人生に於いての方向付けになるような事件が起きたのは、高等部に入って二ヶ月としない、まだ春の事だった。


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