光りの中
 最初の頃は、紀子が水商売の世界に行く事を嫌っていた父と母であったが、その収入が二人の想像以上のものになると、態度が急変した。

 何しろ、大人二人が稼ぎ出す収入以上の金を家に入れるのだから、文句が言えなくなるのは当たり前だ。

 寧ろ期待さえし始める。

 紀子は、稼いだ金の殆どを家に入れた。

 高級クラブの№1でありながら、入店以来ドレスは店からの借り物だ。

 ヘアメイクも美容室には行かず、全部自分でやってしまう。

 しかも、店で出されたオードブルやフルーツの残り物を必ず家に持って帰る。

 普通、こうまで貧乏臭い事をすると陰でいろいろと言われてもおかしくないものだが、どういう訳か余計に皆から気に入られた。

 彼女を贔屓にしている客の中には、


「わしがさつきちゃんの衣装全部こうたる」


 と言ってくれる者が少なくないが、その都度、


「社長、それやったら、アタシに何かをこうてくれたつもりになって、その分お店にお金を落として」


 と言う始末。

 こう迄徹底すると、人間清々しく感じるもののようで、益々人気に拍車が掛かる。

 初めの頃は、彼女の事情を知らなかった者など、やはりこの事で陰口を言う者も居たが、暫くするうちにそんな声も聞かれなくなった。



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