光りの中
客達は、着くホステス達皆に無理なサービスを求めた。
「ねえちゃん、えらいべっぴんやのう。そんなかしこまっとらんで、もうちっと側によらんかねえ」
「お客さん、そんな事したらあかん、ここはお触りバーとは違うんやからね」
「まあ、そう固い事言わんと、減るもんじゃないやろが」
嫌がるホステス達を見て、余計に客達のボルテージが上がる。
中には泣き出す女の子も出た。
何度か黒服が注意をするのだが、客は馬耳東風といった感じで、一向に意に返さない。
何時もなら、マネージャーが現れ、その場を上手くあしらってくれるのだが、この日は運悪く休日であった。
代理で店を任されている主任は、マネージャーが休みな時に売り上げが悪いと、自分の成績にでも響くかとでも思ってか、見て見ぬふりをしている。
そんな中、紀子に指名が掛かった。
「主任、さつきちゃんをあんな客の席に着けたらあかんと思うよ」
凛子が真っ先に異を唱えた。
「しゃないやろ、今日みたいな暇な時は我儘ゆうとられへん。ほら、はよう行って!」
紀子は言われるままその席に着いた。
「おう、こりゃまた絶世の美女のお出ましやないか。ささ、乾杯しよ、ほれ好きなもん何でも注文して」
まだ未成年の紀子は、それまで一度も客席でアルコールを口にした事は無い。
勿論、プライベートに於いてもだ。
「お客さん、さつきちゃんはアルコールが駄目なのよ。ごめんなさいね。代わりにあたしがとことん付き合ったげる」
「あほぬかせ!酒飲ます店の女が飲めんちゅう事あるかあ!」
凛子が何とか取り成そうとしたが駄目だった。
当の紀子はそんな周囲の心配もよそに、事も無げにグラスを傾けた。