光りの中
 ついこの前迄は、何をするにしても他人の陰にひっそりと隠れ、目立たぬように過ごしていた紀子であったが、カツヤを知ってからの彼女はそれ迄とは百八十度違う性格に変わった。

 自分の感情や意思を自ら伝えるようになったのだ。

 自分への自信も一つには要因としてある。

 葉山さつき、としての自信……

 自分の価値というのが、十六の少女の想像以上のものであった事を知った瞬間から、更に彼女は変化して行ったのである。

 カツヤにはその事を理解出来る由も無い。



 ある日、初めて紀子がカツヤに口答えをした。


「あんたなぁ、自分で面倒見るゆうて大見栄切っとるくせに、なあんもしとらんはどういうわけ?
 それだけやなく、この部屋の家賃やらバイクのローンは払わすわ、しまいにはアタシが風呂に入ってる隙に財布から金は抜くわ、いったいどういう事なん?
 アタシはあんたの何なのよ!」

「じゃかわしいわ!それがどうした!
 男を立てるのが女の務めじゃろ。面倒見るゆうたら、今迄かてきっちり見て来たやろが」

「アホ言わんといて!何時アタシがあんたの面倒になったん!」


 抑制出来ぬ不満が噴出した。

 カツヤの心の中には紀子に対しての負い目があるから、逆にストレートに言われてしまうと、より感情的になってしまう。


「女が生意気ゆうな!」


 言うな否や手が出た。

 紀子の頬が乾いた音を立てる。

 一瞬、しまったというような顔をしたカツヤだったが、平手打ちをされた紀子の睨み付けるような眼差しに、尚の事、暴力の火を付けた。


「や、やめて!な、何すんねん!」


 無言のまま紀子の身体を打擲し続けるカツヤ。

 狭い部屋は物で散乱した。

 この日を境に、紀子の身体に生傷が絶えなくなった。


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