光りの中
 カツヤへの想いに微妙な変化を見せ始めたのは、紀子が高校を卒業する直前の頃であった。

 夜の仕事と学業を両立させたのは、紀子自身の持っている意思の強さの現れとも言える。

 小さい頃から、他人に押し付けられた事に対してはさほどの執着心を見せない彼女だったが、自分で一度決めた事に対しては最後迄意地を張るような所があった。

 店側は、そのまま高校卒業後も店に残ってくれと言ったが、紀子は普通に就職する道を選んだ。

 紀子にしてみれば、エル・ドラドは飽くまでも生活の糧と、自らの学業の為に選んだ道ではあったが、その道が本道になる事など微塵も考えていなかった。


 長い人生の中でのほんの寄り道……


 彼女にとっては、脇道の一本に過ぎなかった。


 アタシの本当に歩む道は別に在る……


 それがどの方向を向いているのか、どの道なのかは、まだハッキリと判ってはいない。

 模索しているからこそ、高校を卒業したら、普通の会社勤めをしてみようと考えたのだろう。

 一ヶ月に何十万と稼ぐ女子高生から、安い給料のOLになる事に、なんら抵抗は無かった。

 尤も、稼ぐ時は月に百万を下らない収入を得てはいたが、決して自分に贅沢をした事は無い。

 その殆どが、実家の生活費と、学費であったし、カツヤとの生活費にもなった。

 見えないしがらみ……

 きっと、紀子はそれを無意識のうちに感じ始めたのではないだろうか。

 実家の生活費と学費は仕方無いにしても、カツヤとの生活に掛かる分迄負担する事に、少しずつ疑問を感じて来たのである。


 束縛からの解放……


 それはカツヤとの別れを意味するという事に、薄々気付いてはいた。

 とにかく、彼女は新しい世界に自ら飛び込もうと考えたのである。

 そして、この事から彼女の人生に一大転機をもたらす出会いが待っていたとは、本人自身のみならず、周囲の者達全てが気付く訳も無い。


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