光りの中
 勝又はカツヤとは丸っきり正反対のタイプの男だった。

 行動的という部分では共通しているが、勝又のそれには思慮が加わる。

 周囲への気遣いや気配りも行き届き、何時も笑顔を絶やさない。

 歓迎会での好印象もその辺から来ていた。

 快活に笑い、上司のみならず後輩や同僚達へ酒を注いでやったり、追加の注文を取ってやったりしている姿に、少しも嫌味が無い。

 営業成績も良く、取引先からの引き合いも多い。

 大学時代はサッカー部で主将を務めた事もあるという、絵に描いたような好青年であるが、完璧かというと、時折ポカもやる。

 それが憎めない失敗であったりするから、尚の事好印象を持たれる。

 紀子でなくとも、勝又を見て気にならない女はまず居ない。



 入社して二ヶ月程したある日、紀子は初めて残業を命ぜられた。

 明日の午前中迄に仕上げねばならない書類に不備が見付かり、改めて作成しなくてはならなくなった。

 紀子には何ら責任は無かったが、上司である係長は紀子や他の女子社員をネチネチとなじった。

 添付する筈の書類を作成し忘れた訳だが、最初に作成しなくていいと指示を出したのは、係長自身であった。

 古参の女子社員がその事で不満を口にすると、その係長は顔を真っ赤にして逆にキレた。

 とにかく、明日の朝一番には間に合わせなくてはならない。

 添付する書類の部数はかなりの数である。

 他の社員達が先に帰り、二時間ばかりして、外回りから帰って来た営業課の連中が、


「おっ、珍しく今日は総務課の姫達が残ってらっしゃる。
 毎日これだけの美人達にお帰りなんて言われたら、俺達ももっと仕事に身が入るんだけどなあ」


 おどけて冗談を口にする営業社員を無視するかのように皆一心不乱に書類作成に精を出していた。

 数人の営業社員の中に勝又が居た。


「皆お疲れさん」


 そう言って彼は、手にしていた缶コーヒーやジュースを女子社員達に配り始めた。




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