光りの中
 私が照明係として働くようになって三ヶ月ばかり過ぎた頃、あるベテランの踊り子が新宿の劇場で引退興行を行う事になった。

 その踊り子とは面識は無い。

 前の月にシアター アートに乗ったある踊り子さんから、


「その姐さんのステージを観る最後のチャンスだよ」


 と言われ、六月の中旬、休日を利用して私は新宿の劇場へ出掛けた。

 観に来なさいと言った踊り子本人が、その興行ではトップの出番で、シアター アートに出演した事のある踊り子も他に何人か居た。

 興味自体は正直な所、引退興行の主では無かった。

 自分が当てる照明とどう違うか……

 劇場によってライトの種類が大分違う。羨ましくなる位にいい器材を使っている。

 だが殆どが使いこなせていない。

 コンピュータでプログラミングされた大劇場の照明ならいざ知らず、手動の照明ならば感性でライティングというものはある程度変わるものだ。どの劇場の照明も、単に踊り子をライトで追っているだけだった。

 当てるライトの角度、色……何でも光を当てればいいというものでもない。

 ライティング一つで舞台は生きもし、死んだりもする。

 が、本物の舞台を演じてくれる踊り子は、そんなものを超越してしまう。

 しょぼい一本のピンスポットだけでも、客を虜にしてしまうものなのだ。


 話しが又逸れた。


 引退興行を行っていた踊り子は、下に何人もの妹分を枝葉のように作り、自分の名前を冠にした軍団なる一団を形成していた。

 狭い縦社会の一面……

 そう受け止めるだけでは理解出来ない繋がりが彼女達にはあった。

 劇場の待合室や廊下に沢山の花輪や花束が飾られていた。


『いずみリカ姐さんへ 〇〇より』


 そんな中に姿月の名前を見た。


 誤解の無いように言う。

 こののち二ヶ月後に出会う迄、僕は姿月という踊り子の事を何一つとして知らなかった。

 しかし、どうしてなのかこの時に見た花輪の中の名前をその後もずっと記憶していたのである。

 理由……

 今もって判らない。

 引退興行の主であるいずみリカのステージは、素晴らしかった。






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