光りの中
 胸の高まりが速まった。

 勝又が缶コーヒーのプルトップに折り畳んだ紙片を挟んで手渡されたのを気付いた時、当然、それが何を意味する事か充分に判った。

 誰にも気付かれなかったかが気になって、書類を捲る指先がぎこちない。

 仕事を早く終わらせて早く紙片の中身を見たい。

 じりじりした気持ちを抑えながら気もそぞろに時間が過ぎて行った。

 小一時間ばかりしてやっと残業が終わった。


「さ、帰ろ帰ろ。なあ、せっかくやから、みんなこの後ご飯いかへん?」


 先輩の女子社員が紀子達に声を掛けて来た。


「行く行く。ご飯だけやなくてプハァーちゅうのも」

「あんた親父臭い事いいなや、もぉ。そんなもん、言わんでも行くに決まっとるやろ」

「やったあ!そうと決まればみんなはよ着替えよ。なあ、紀子ちゃんも行くやろ?」


 先輩の女子社員がグラスを傾ける真似をしながら紀子に声を掛けて来た。


「いえ、私はちょっと……」

「行かへんの?」

「ええ…今度又機会があったら誘って下さい」

「何処ぞのええ人とデートやと」


 古参の女子社員が嫌味ったらしく言った。


「いえ、デートとかそんなんと違います」


 必死になって否定する紀子を見て、尚の事囃したてられた。


「ええよ、ええよ。うちらみたいにいきそびれた売れ残りと違おうて紀子ちゃんは見ての通りの美人さんやからな。
 ほな、うちらだけではよいこ」


 潮が引けるように先輩達が更衣室を出て行き、紀子は一人になった。

 勝又から渡された紙片をそっと開いてみた。

 そこには電話番号が書かれてあり、何処かの店だと思われる店名の名前が添えてあった。








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