光りの中
 本来紀子はそれほど飲める口ではない。

 エル·ドラドで働いていた時も、始めのうちは客に勧められるまま飲んだりしていたが、ある時死ぬ程具合が悪くなり、以来余り飲めなくなった。

 元々、体質的に合わないのかも知れない。

 甘口のラムコークとはいえ、元はかなり強い酒だ。

 一杯目でかなり酔いが回り始めて来た。

 けれど、今夜は気分がいい。


「おかわり下さい」

「おかわりなんて珍しいやないの。口におうたみたいやね」

「これならアタシでもいけるみたい」

「良かった。何時もは一杯だけやのに、勧めたかいがあったわ」


 二杯目のラムコークが出された。

 雅子は既に紀子の倍は飲んでいる。

 店内の淡い照明の下でも、彼女の頬がほんのりと赤みを帯びているのが判る。


「なあ紀ちゃん、もうミナミには戻らんの?」

「えっ!?」


 突然の雅子の言葉に紀子は動揺の色を隠せなかった。


 ミナミ……

 エル·ドラドの事を言っているのだろうか……


 紀子は、その事をこれ迄誰にも話した事は無い。

 沈黙の中、雅子の笑みが紀子の身体と心を膠着させた。


「内緒にしてたんやろうけど、この世界は広いようで狭いもんや。うちな、凜子の妹やねん」

「凜子さんの?」

「驚いた?」


 無言で頷く紀子。


「妹ゆうても、うちは連れ子やから血は繋がってへんけどな。でも仲はええんやで。しょっちゅう電話して来ては、仕事の愚痴ゆうとるけどな」


 懐かしい名前を耳にした。

 そういえば、エル·ドラドを辞めてからは凜子とは会っていない。


「葉山さつき……。エル·ドラドみたいな大箱のクラブで、それこそ年端も行かない若い女がずっとNo.1を守っていた。ミナミで噂にならん方がおかしいもんや」

「初めての日から気付いてはったんですか?」

「ううん、三回目位の時やろか。たまたま凜子姉ちゃんが、紀ちゃんと一緒に写ってる写真見てな、あっ、て思おうたんよ」


 そう言って雅子は煙草に火を点け、深く吸い込んだ。



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