光りの中
 その夜、紀子が『雅』で雅子に凜子との一件を話すと、彼女は何故か顔を曇らせた。


「なんや余り勧められへん気いがするんやけど……」

「……?」

「ここんとこな、ええ噂聞かへんのや」

「凜子姉さんの…ですか?」

「ううん、旦那の方や。確かに元は大手の広告代理店で、やり手の営業マン言われてた男やったんやけど、辞めて独立してからあちこちに借金しとるらしくてな……」


 紀子は雅子が一緒になってこの話しを喜んでくれると思っていた。

 勿論、紀子自身、自分が簡単に芸能界デビューを飾れるとは思っていない。

 自分というものをわきまえているつもりだ。

 自分程度の容姿なら、ミナミ辺りに何人も居る。

 けれど、可能性はゼロだとは思っていないし、第一、単に名前を登録するだけじゃないかという気持ちもあった。

 何となく気まずい思いのまま翌日を迎え、昨日と同じ場所で同じ時間に凜子と待ち合わせをした。

 凜子は五分程遅れてやって来た。


「ごめんごめん、じゃあ行こか。この近くに知ってる写真屋があるから、そこでええ写真撮って貰おな」


 急かされるように手を引っ張られた。

 凜子のペースで事がどんどん進む。

 駅近くのフォトスタジオで簡単に写真を撮った。

 本当に簡単な写真だった。

 第一、着てる物も何時ものまま。

 紀子はせめて着替えでも持ってくればよかったと後悔したが、凜子は、


「かまへん、かまへん。かえって普通の格好しとる方が印象ようなるもんや。変に気取ったポーズや派手な衣装着たかて、逆にお水っぽく見えてあかん」


 と言った。


 立ち姿と椅子に座った写真を撮って貰い、その場で現像して貰った。

 四つ切り大に引き伸ばして貰った写真を手にし、


「ノリちゃん、ご苦労さん。うちはこの足で東京に戻るから、もし面接とか入ったら直ぐに電話するね」

「面接?」

「決まっとるやん。制作会社の面接」


 紀子は、何だか自分の目の前にきらびやかな色彩が広がったように感じた。


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