光りの中
 三日過ぎた夜、紀子のアパートに凜子から電話が入った。

 会社に掛けられると、何かと具合が悪いと思い、アパートの電話番号を教えておいた。

 電話口の向こう側から凜子の興奮した様子が伝わって来た。


(あのな、ノリちゃんの写真とプロフィールを幾つかの制作会社に送ったんやけど、早速会いたいゆう所が出て来てな、かなり乗り気なんや)

「会いたい言いますけど、アタシが東京に行かなあかんのですよね」

(そらそうや。本人が来な話しが進まへん。心配しなくてもええよ。うちの旦那が一緒に付いて行くし、東京迄の交通費かて先方が用意してくれるゆうとるから、とにかく、今度の休みにでも出てくればええ)


『エル·ドラド』の頃、凜子には何かと面倒を掛けた思いがあるから、紀子はとにかく断る事が出来なかった。

 尤も、紀子には最初から断る気など無かったが……。


「土曜日の夜、東京に行きます。面接は日曜日でも大丈夫ですよね?」

(全然かまへんよ)

「ところで凜子さん、面接って何の面接に……」

(うちはあくまでもタレントを紹介する事務所で、先方はCMやら雑誌のグラビアの仕事を請け負ってる会社のようなんよ。うちの旦那が言うには、上手くすればその場でグラビアとかの契約に迄行くかも知れへんと)

「グラビアって?」

(水着とか下着姿にはなるやろけど、まあ、売れっ子のアイドル歌手でもビキニ位にはなっとるしな。
 ノリちゃんなら心配いらへん。スタイルもええし、顔かてアイドル顔負けやもん。何も心配せんと、うちらに任せといて)


 自信満々に話す凜子の声が何時までも耳に残った。


 電話があった翌々日、仕事を終えた紀子は新大阪の新幹線ホームに立っていた。

 手には僅かな着替えと私物だけ。

 日曜日の夜には戻るつもりだったから、そんなもので充分な仕度だった。


 そう、その筈だったのだ。



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