光りの中
 東京駅に着くと、前以て到着時間を知らせておいたから、凜子と見知らぬ男が出迎えてくれた。

 その男が凜子の旦那だと初めて知った。


「ノリちゃんは会うの初めてよね?」

「ええ」


 紀子が挨拶をすると、


「はじめまして、妻が今回いろいろと無理を言ってしまい申し訳ありません」


 山崎雄二と書かれた名刺を渡しながら、男は握手を求めて来た。


「僕は以前に貴女の事を見掛けてます。勿論、『エル·ドラド』でね」


 にこやかに話す口ぶりは、決して悪い印象ではないのだろうが、紀子は、何だか遣り手のホストをイメージしてしまった。

 人当たりの柔らかさが、寧ろ作為的に感じたのかも知れない。

 当たり障りの無い会話をしながら、三人は原宿に向かった。

 途中、凜子だけが用事があるからと言って別れたので、紀子は心細い気分になった。

 その辺を察した山崎が、芸能界の裏話などをしながら、紀子の気持ちを和らげようとするのだが、それは逆効果になってしまった。

 原宿駅を降り、表参道を暫く行った先の裏通りの古いマンションに案内された。


「今日、面接する会社は、ここんとこいろんなメディアにタレントをブッキングしてる会社なんです。話しがまとまるといいなぁ」


 エレベーターの無い五階建の最上階にその会社はあった。

 ドアにカタカナの社名が書かれていたが、なんという社名だか思い出せない位、紀子は緊張していた。


 なんやろ、この狭くて薄汚い事務所……

 これでも芸能事務所?


 もっと華やかなイメージを抱いていた紀子にしてみれば、それは偽りの無い正直な第一印象だった。

 ドアを開けた目の前に、安っぽい応接セットがあり、出迎えた三十前後の男が紀子を見るなり、


「いいねぇ、ユウちゃんたまにはいい仕事するじゃない」

「でしょ、これで今迄の借りはチャラですね」


 当の本人である紀子などお構いなしに、その男と山崎は勝手に盛り上がっている。

 紀子は何となくその場から逃げたい気分になって来た。



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