光りの中
 テーブル越しに渡された男の名刺を手にしたまま、紀子は話しを聞いていた。

 名刺に目をやると

『ACE企画代表取締役三浦直樹』

 と書かれてあった。

 歳は見た感じ、山崎と余り変わらなさそうだ。


「……で、一本の出演料なんだが、ランクBの上という事で……」

「出演料?ランクBとかってどういう事です?」


 紀子は事務所の社長と山崎の顔を交互に見て問い質した。


「あれ?ユウちゃん、話し、最後迄通して無かったの?」

「いや、まあ……直接会って頂いてからと……社長から直ぐ出れる子って言われてた事もありましたから……」

「なあんだ、現場で口説けって事かい?」

「その方が間違いないかなあって……」


 苦笑いする社長の三浦に、


「今日は、モデルの在籍登録をする為の面接だけって聞いてたんですけど……」


 胡散臭いものを見るような視線を投げつけながら質問して来た紀子に三浦は、


「うちは、ビデオがメインなんだけど、一緒に雑誌用の絡みの撮影もOKなら、多少ギャラをプラスしても構わないよ」


 と言って来た。


「あの、おっしゃってる事の意味がよく判らないのですが」


「アダルトビデオ、つまり俗に言うエッチビデオの事さ。彼氏とラブホなんかでチラッとは観た事あんじゃない?」

「そんなん、ありませんっ!」

「そんなビックリするような事じゃないよ。エッチビデオと言っても、人気が出れば、そのまま芸能界デビューも夢じゃないんだよ。
 ほら、今、深夜のテレビ番組に出ているTバック履いて半ケツ出してるあの子だって、元はこっちの世界の子なんだぜ」

「アタシは、普通の芸能プロダクションの面接って聞いたから大阪から出て来たんです。
 アダルトビデオって、ようは男優さんと本当にエッチせなあかんのでしょ?」

「まあ、擬似SEXでごまかす子もいるけど、うちは全部本番物なんだ。その方が今は売れ行きが違うし、ギャラも多く払える」

「そんなんどうでもいいんです。最初の話しと違うという事を言ってるんです」


 紀子は苛立ちの余り、声を荒げた。

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