光りの中
「了解、君の条件を呑むよ。ユウちゃんより彼女の方が営業上手いんじゃない?」

「ですね。まいったな」


 苦笑いをする山崎の顔を見ながら、紀子は凜子の顔を思い浮かべていた。


 きっと、凜子姉さんも最初からこういう話しやって知ってた筈やわ……

 多分、いろいろお金とか絡んでんやろなぁ……

 それにしても、何で引き受けるって言ってしまったんやろ……


 後から思うに、紀子はこの所の出来事から来る反動からそうなったのだろうと、自らを納得させた。

 正直、まだ残っている父親の借金を考えれば、僅かな時間で大金を得られる仕事はなかなか魅力的だ。

 それにしても拒否する心とは裏腹な言葉が出てしまった事は、今もって不思議だ。


「それで、どんな内容です?」

「今回は、時間が余り無いから、普通に冒頭に自己紹介の場面を設けて、で、そのまま男優さんが割り込んで本番。大体、絡みは三場面位撮ればOKだ」

「最後にもう一つだけ。病気とか、妊娠だけは絶対あかんから、避妊はきちんとしてください」

「OK大丈夫だ。じゃあ、話しも決まった事だから、早速撮影に取り掛かろう。
そうだ、デビュー作なんだから、名前を決めなくちゃ。それとも本名で出る?
 それでも構わないけど、ただ紀子じゃなあ……」

「芸名にして下さい。」

「クラブ時代の名前なんかいいんじゃない?」

「それはあかん。葉山さつきは葉山さつきとして存在してたんです。
 AVやるからにはAVのアタシにならなあかんから……」


 いつの間にか、話しの主導権は紀子に移ってしまったかのようになっていた。

 だが、表向きとは裏腹に、紀子の気持ちは時間が経つ毎に複雑に揺れ動いて行った。





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