光りの中
 半分騙されてAVの世界に身を投じた紀子であったが、当初危惧していた親バレが、何と最初の一本目で現実となってしまった。

 母の知り合いが偶然雑誌の広告ページで紀子の主演作品を見つけてしまい、両親の耳に入ってしまったのだ。

 それだけではない。

 勤めていた会社にまでばれた。


 一発目で交通事故に遭ってしもた……


 もっと最悪な事に、約束されていた出演料が、期日を過ぎても口座に振り込まれて来なかった。

 直ぐさま事務所に電話したが、受話器から聞こえて来たのは、現在この番号は使われておりませんの声であった。

 凜子の方も音信が途絶えた。

 以前迄は、雅子には何でも相談していた紀子だったが、今回の件以来、何と無く疎遠になっていて、この事も今更という気がして話せ無かった。

 AVの仕事もこれで絶ち消えかと思っていた矢先、別なプロダクションから声が掛かって来た。

 そのプロダクションこそ、業界では名前の通った事務所で、話しを聞くと、紀子の契約書がその事務所に売り飛ばされていた事が判った。

 考えようによっては、その事務所で幸運だったのかも知れない。

 取りも直さず、その事務所に所属する事になり、年間十本の作品を撮る事になった。

 一本辺りの撮影は大体一日で終わるから、何気に時間が出来る。

 勿論、たまに男性誌のヌードなどの撮影が入る時もあるが、自由な時間の方が多い。

 暫くは雅子の店を手伝いながら仕事をしていたが、やはり何処と無く居づらくなり、別な店を紹介して貰ったりした。

 AVの撮影自体、やってみるとそれ程辛いとは感じ無かった。

 滑稽な事に、男優達が必死になって汗だくに腰を振っている様を見上げて、撮影中に笑ってしまった事もある。

 辛かったのは、絡みで自分が感じてるふりをしなければならなかった事だ。


 本気で感じさせてくれたら楽やのに……

 こんなん観て、世間の男はほんまに興奮するんやろか……

 ただ金の為……


 虚しさを覚え始めた頃、紀子はストリップと出会った。


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