光りの中
 月一本のペースでAVに出演していた紀子にストリップの話しが舞い込んで来たのは、平成七年の春であった。

 事務所の社長から、何度かその話しをされていたが、毎回はっきりした返事をしていなかった。

 気乗りがしなかったから、何時も適当に返事をごまかしていた。

 スタッフだけの仕事現場で自分の全裸をさらけ出す事は、この一年余りで慣れては来たが、何十、何百というぎらつく視線にとなると、さすがに抵抗がある。

 そうこうしている時、同じ事務所に所属する子でストリップデビューする子が居て、浅草のスター座に出演する事になった。

 浅草スター座。

 ストリップ界のトップに君臨する老舗の劇場である。

 踊り子の全てが、此処の舞台に乗れたらと夢を見る。

 ストリップの聖地と表現してもいいだろう。

 そこでデビュー出来る踊り子は、ほんの一握りに過ぎないし、何年踊り子をしていても、生涯この劇場から呼ばれない子も居る。

 デビューする子とは何度か事務所で顔を合わせた事がある。

 スラリとした長身で、可愛いというより清楚な美人といったタイプだ。

 何処か引き合うものがあったのか、初対面からその子とは打ち解ける事が出来た。

 浅田かおりというAVでの芸名のまま、ストリップ界にデビューする事になった彼女の初舞台を紀子は事務所の社長と一緒に観に行く事になった。

 行ってみて驚いたのは、ステージの広さと客席の多さであった。

 そしてもう一つは、想像していたのとは違って、舞台そのものがいやらしさのかけらも感じなかった事であった。

 紀子の頭の中に在ったストリップのイメージは、もっとおどろおどろした淫靡なものであったが、目の前で繰り広げられていた舞台は、宝塚のレビューを想わせるようなもので、少しばかり驚いた。


「こんな感じのステージなら別に問題無いだろ?
 ダンスのレッスンとかは初めのうちはきつく感じるかも知れんが、そんなもん適当に身体くねらせとけば大丈夫さ。どうだ、やってみるか?」


 紀子は即答しなかった。

 が、既に答えは出ていた。
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