光りの中
 姿月がその頃の事を笑いながら話すのを僕は不思議な気持ちで聞いていた。

 あっけらかんとしている。


 強いな……


(そりゃあ辛い事も沢山あったけど、後ろばっかり見てたら死にたくなってしまうやろ。アタシ、嫌やもん。アハハって笑ってしもうた方が楽やん。だから言うて、その辺の脳天気なオネーチャンと一緒にされたらかなわんけどな)

「前に、デビューから暫くはブリブリのアイドルしてたって言ってましたけど、きっかけって何だったんですか?」

(アタシの知らんうちにそういう路線敷かれてた……。
 衣装かて、自分でなんか選んだ事無かったんよ)

「ほんとですか?」

(そう……)


 何故か姿月の声のトーンが落ちた。

(あん時の事を思い出すと顔から火が出るわ。とにかく、あれよあれよという間にデビューさせられてな、もうその時点でうちの事務所とは反目になったんよ)

「それで路線変更を?」

(まあね。元々アタシって、他人に自分の生き方を決められるのって嫌いなんよ。自分の道位、自分で探して歩くわ)

「強いな……」

(何が?)

「僕なんかこの歳になってもこんな有様だし、それに比べたら……」

(勘違いしたらあかんよ。アタシにしたって毎日頭悩ませてるもん。
 まあ、アタシの場合はプライベートから仕事からいろいろ有り過ぎるんやけど)


 そう言って笑う彼女の声が、僕の耳元で心地良く響いた。


「何だか姿月さんのステージ、観たくなって来たなぁ……」

(来て来て、盆の上からアンタの姿見つけたら抱き着いてあげる)

「冗談でも止めて下さいね。」

(シアター·アートの照明係、今度は姿月に手を出す……てネットに出るやろな)

「勘弁して下さい……」

(うそ、うそ、ゴールデンウイーク、野毛で待ってるからね)


 そして約束通り、僕は彼女のステージを観に行った。






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