光りの中
 五月の連休、『シアター·アート』は久々に客足が良かった。

 活気のある場内というものは、照明ブースから見ていても感じが良いものだ。

 自然、ステージに上がる踊り子達の気持ちも高揚する。

 反対に、客が少ないとテンションが下がってしまうのは、ある程度は仕方が無い事だと同情出来る。

 しかし、現実には満席の状況ばかりに出会える訳では無い。

 余程、本人自身に客を呼び込めるだけの魅力や人気があれば別物だが、劇場自体に客を引き寄せる力がなければ、閑古鳥の日々が続くのは致し方無いものだ。

 二、三人の観客を相手に不機嫌そうに踊る踊り子。


 ほら、勝手に観な……


 そんな空気が伝わる場面を何度か見た事がある。

 自分の贔屓客が少ない日には不機嫌さがより増す踊り子。

 中にはそうではない踊り子も居る。

 本物のプロフェッショナル。

 姿月もその一人であった。



 その日、僕は劇場から半休を貰い、近くの花屋で買った花束を手にして姿月の出演する劇場へ向かった。

 夕方くらいだったが、劇場の待合室でうちにも良く来てくれている常連客と一緒になった。


「姿月さんのステージ、観に来たんだね」


 彼は去年のお盆興行で、彼女のステージを初めて観てファンになった客だ。


「電話で観に行きますって約束したんで。それに、今の出し物って確か新作だって聞いてたから」


 彼女の出番は次だ。

 時間を見て、その客と場内に入る。

 観客は僕を入れて総勢四人。

 それだけじゃない。

 照明と呼べるライトなんて一つも無かった。

 場末の安キャバレー以下かも知れない。

 やる気の感じられない照明係のアナウンスが流れ、姿月のステージが始まった。

 ナチの軍服を思わせる衣装を纏った彼女がいきなり舞台中央の盆にツカツカと来て片膝を付いた。

 暗転の状態とはいえ、スタンバイの状態は判る。

 数メートル先に佇む彼女から気が伝わって来た。


 入り込んでいる……


 音が流れ暗闇の中に一本の光りが走った。

 浮かび上がる彼女の視線には、僕ら等まるで無かった。


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