光りの中
 ステージを見終え、僕は気持ちの高揚を噛み締めると同時に、やるせ無さを感じていた。


 もっとちゃんとした照明がある舞台に立たせたい……

 立ち見が出る位の大勢の観客が見守る中で……

 そして、そのライトを当てるのは……


 数日後、彼女に電話をした。


「あんな寒い舞台でもよくテンションが下がりませんね」

(まあな、無い物ねだりしてもしゃあないから。
 アタシ、結構ああいうしょぼい明かりで踊るの嫌いやないんよ。ただな、やれるのにやってくれへんかったりしたら腹立つけど、あの劇場じゃ無理やし)

「ですね……」

(でも、あんな野毛なんかにうちの事務所コース入れるんやったら、なんでアンタんとこに乗せへんのやろ……)

「さあ……その辺の事は余り詳しく判りませんが……」

(事務所に嫌われてるからな……)


 自嘲気味に笑う彼女の声には、余り何時もの明るさは感じられなかった。

 自ら所属する事務所と、このところ小さなトラブルが続いているらしい。

 彼女自身は、その辺の話しをさらりと話してはいるが、かなり複雑な感情が入っている事が言外に臭う。


(潮時かな……)

「えっ!?」

(アタシな、来年の五月でデビュー五周年になるんよ。でな、その時に引退しようかなって考えてるんよ)

「引退、ですか……」

(ストリップとは違う形で、何かやれたらええけど、今はまだ模索中)

「引退興行、やるんでしたら、その時は是非うちで。
 もし、ご自分の劇場でされるのでしたら、その時だけ照明当てに行きます」

(アタシもそうなったらええなって思うよ。どうせなら、自分が一番楽しく踊れる舞台で幕退きたいし……。
 まあ、うちの劇場ではアタシの引退興行なんてやらせてくれへんやろけどな)


 虚し気に言葉を吐き出した姿月と僕は、この電話の二ヶ月後、再び一緒に仕事をする機会に恵まれた。

 お互いにそれが最後になるとは露とも感じていない平成十一年の春の事であった。






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