光りの中
 普段の開演が十一時半からなので、当日乗り込みの踊り子達は遅くとも十時前後には到着する。

 たまに、開演ギリギリにやって来る踊り子も居るが、殆どの踊り子は初日は早めに来る。

 客足も平日の割りには悪くない入りで、荷物と共にやって来る踊り子達の慌ただしさが、少しずつ緊張感を上げて行く。

 姿月がやって来た。


「おはようございます!」

「おはよ」


 楽屋で見る彼女の笑顔は、格別なものがある。

 客の前では見せない笑顔。

 そんなふうに自分勝手な思い込みを抱きながら、何時ものようにステージの打ち合わせをする。


「あんな、午後に他の出し物の荷物が届くと思うから、宅配便が着いたら運んで置いて欲しいんよ。多分アタシ、ステージの最中やと思うから」

「判りました。マネージャーに伝えて置きます」

「で、アタシの照明、佐伯君が全部するんやろ」

「はいっ。休憩も早めに終わらせて、姿月さんの時は交替します」

「アンタが自分で観たいって言ったんやから、ちゃんと責任取ってくれなあかんよ」


 姿月と同室の若い踊り子達も、彼女が今回、五つの演目をやるという事を知って興味深々でいる。

 何度かうちに来演した事のある踊り子の一人などは、シー姐え、シー姐えと言っては身の回りの世話を買って出ている。


「私もシー姐えのステージ観たいんですけど」

「ええよ。観るんやったら、最終回のステージがええかも」


 若く経験の浅い踊り子達にしてみれば、姿月の舞台から得るものは山程在る。

 それは踊り子達だけでは無い。

 照明を当てる側にも言える。

 彼女程、こちらの感性を試される踊り子はいない。

 あらためてそんな事を思いながら、僕は一回目の照明をする為に投光室に入った。

 開演のアナウンス。

 何時もより緊張している自分がいた。


 1999年7月21日。

 時計の針は午前十一時三十分を少しばかり過ぎていた。



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