光りの中
 一年振りに照明室から観た彼女は、僕が差し出す光り達を全身で受け止めてくれた。

 光りの中を漂い、時に光りと戯れ、時に光りを挑発し、時に光りと同化した。

 そして、僕自身もステージに同化させられていた。

 観客達に彼女の熱さが伝わる。

 たかが裸踊りと彼女は言う。

 妙なプライドばかり振りかざす踊り子は、自分のステージは芸術であるとでも勘違いしてか、観る側にもそれを求める。

 たかがと言っている姿月のステージの方が、数段観客達にアートを感じさせ、カルチャーを思い起こさせる。

 演じている本人が意識していないからこそ、寧ろその熱い心が伝わる。


「高い金払って、見てくれの悪い姉ちゃんやオバハンが裸で出て来たらどないする?
 銭返せ!って怒鳴りたくなるやんか。裸になるんやったら、観てる客みぃんな欲情させな。」


 姿月が常日頃から口にする言葉。

 舞台の上で、自分をどう美しく、そしてなまめかしく観て貰えるかを考えている彼女。

 光りの海に飛び込む彼女は、自分を一番引き立たせてくれる光りを追い求めて泳ぐ。

 僕が差し出す光りを喜々として享受する姿月。

 彼女の動きの全てを僕は見逃すまいと目を凝らす。

 何時ものように彼女は光りの向こう側を見つめている。

 視線の先には自分が演じようとしている情景があるのだろうか。


『お七狂乱』


 週の中程にやった演目。

 シアター·アートの狭い舞台が、火事で燃え盛る江戸の町並みと化していた。

 彼女の醸し出す情念に、観客達は皆、声を失っていた。

 八百屋お七をモチーフにした演目は、彼女以外にも何人か演じている。

 大概のものは誰が演じても同じに感じられる代物だ。

 が、姿月のステージには血が通っていた。

 生身の感情が伝わる。

 憑依。

 舞台上の彼女には演じている主人公そのものが舞い降りて来ていた。

 一日四回、十一日間で四十四回、僕は彼女と至福のひと時を過ごした。

 そして、至福の時はあっという間に楽日となった。


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