光りの中
 ステージはトリ前。

 姿月の出番迄あと十分少々。


「いいかい、機械の基本的な操作はもう全部覚えたと思うけど、もっと違う視点でこのあとの照明を見て欲しいんだ」

「はい」


 何処と無く彼の仕事ぶりに物足りなさを感じていたから、僕は姿月のステージを目の当たりにする事で何かを感じ取って貰いたかったのだ。


「在り来りなステージの照明を何百回やったって、絶対に上手くはならない。上手くっていうのは、技術的な事を言ってるんじゃない。
 舞台は生ものだ。常に自分の感性を研ぎ澄ませていて欲しいんだ。照明にルールや約束事なんて無い。こういう色を使っちゃいけないとか、この場面はこのライトでなきゃ駄目だなんて事は言わない。最低限守るべき事は、何処でライトを点け、何処で消すかというタイミングだけで、あとは照明をする人間の感性なんだ。
 それには、こっちの感性を触発してくれる踊り子さんのステージと出会う事なんだ」


 僕は、夢中になって話し続けた。

 彼が理解してけれてるかどうかなんて、まるで考えていなかった。


「佐伯さん、ほなこの後宜しく」

「OK」


 それ迄の担当者と交替する。

 椅子に腰を降ろし、場内を見下ろす。

 姿月のファン達がゾロゾロと入って来た。

 あの客も。

 深く息を吸い、音出しをする。

 昨日からの演目だから、姿月の細かい動きや場面毎のポイントはしっかり頭に入っている。

 僕なりにはっきりと照明のイメージは仕上がっている。

 あとは実際に瞬時にそれを表現出来るかどうかだけだ。

 緞帳を開ける。

 ピンスポットは使わず、天井の斜め後方にあるライトで姿月のシルエットを浮かび上がらせる。

 すうっと背中に痺れが走った。

 汗が光る。

 素肌に光りの衣装を纏ったかのように、照らされるライトで七色に変化していく。


 新人君、しっかりと見とけよ!


 心の中で叫んでいた。

 終始無言で照明に没頭する僕を見て、彼は何かを感じ取ってくれただろうか?

 否、そんな瑣末な事はもうどうでも良かった。

 姿月の表情が満足気に見えた。


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