光りの中
 三回目のエンディング。

 たった二十分余りが一時間にも感じ、又ほんの一瞬にも感じた。

 終始無言でいた新人君を無視するかのように、僕は投光室を一旦出た。

 気持ちの高ぶりを誰かと共有したかった。

 常連客達が待合室に居た。

 長身の客も。


「いやあ、やっぱ姿月さんいいっすよねえ」


 若い常連客の一人が僕に話し掛けて来た。


「佐伯さん、最後も照明するんでしょ?」

「勿論。他の奴がやりたいって言ってもさせないよ」

「佐伯さんが一番特等席で観てんだからなあ、羨ましいっ!」


 他の常連客の間からも笑いが起こる。

 煙草を一本だけ吸い、少しだけ緊張を解す。

 マネージャーが明日からの出演者の写真を待合室に貼り始めた。

 姿月とは次の一回でしばしの別れになる。

 次の出会いの為の別れ……

 時計を見る。

 開演時間だ。

 客達も察して場内に入った。




 十年以上経った現在、不思議な事に楽日の最終回の記憶だけが僕の脳からぽっかりと消えている。

 その前迄の記憶は、部分部分で薄らいではいるものの、決して色褪せてはいないのにだ。

 此処に、彼女との最終回を克明に書き記す事が出来ない。

 ただ、一つだけ鮮明に記憶している事がある。

 最後に姿月が袖に引っ込む際、僕はマイクを通して彼女にこう言ったのだ。


「十一日間お疲れ様!又お会い出来る日まで!」


 舞台上の姿月に投げ掛けた最後の言葉だった。




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