光りの中
 踊り終えた姿月は、舞台裏で自分の衣装を片付け始めた。


 終わった……

 終わって欲しく無かったな……

 何時もやと、終わってホッとしたとか、その週がやたら長く感じて、やっととか、そんな感覚にしかならへんのに……

 十一日間で五つの演目だなんて、ほんと良く考えたら無茶やわ……

 でも……

 こんなに充実し、心地良い汗をかけたのはどれ位振りやろか……


 衣装を片付け、楽屋へ戻ると既に殆どの踊り子が帰っていた。

 汗を洗い落とす為にシャワー室に入る。

 姿月は、シャワーのコックを開ける事を一瞬躊躇った。


 ずっと、この汗を身体に染み込ませたままでいたい……


 きっと、名残惜しさでそんなふうに思ったのだろう。

 此処が終われば次は和歌山だ。

 所属している劇場の系列だが、気が進まない。

 何かを期待するという気持ちになれない場所に行くのは、本当に心が折れそうになる。


 でもアタシは踊り子、舞台に上がってなんぼ……

 のはずなんやけど……


 十一日間、都合四十四回のステージ全てが自分にとって最高のものを出し切れたと思う。

 年に何回かは、


「やったぁ!」


 という達成感を感じられる時があったが、毎日というのは記憶に無い。

 踊りながら自分が光りと同化したと実感出来たステージ。

 そして、自分に注がれる観客達の視線からも、同じ意識が伝わって来た。


 鳥肌が立つような感覚をステージの度に追い求めて来たけど、ひょっとしたらアタシは今日の日を迎える為に、今迄踊り子を続けて来たのかも……

 鳥肌が立つようなステージ……


 言葉で言うのはたやすいが、実際には年にそう何度も味わえない。

 自分と光りが同化し、更には観客も同化してこそ生まれる瞬間。

 ある意味それは奇跡なのかも知れない。


 だとすれば、この十一日間は神様がアタシにプレゼントしてくれた奇跡なのかも……


 裸のまま、シャワーで濡れた身体を拭おうともせず、姿月は楽屋で一人ぼんやりとそんな事を考えていた。



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