光りの中
「ママ、ご無沙汰してます。突然押しかけてごめんなさい」

「ええのよ、何も遠慮せんと。けど、暫く見んうちにノリちゃん随分とやつれたんちゃう?」


 姿月は今回の経緯をかい摘まんで話そうとしたが、雅子はそれを遮り、


「そんなんどうでもええやんか。事情なんてもんわな、その人本人しか判らんもんなんや。端から見ればくだらないと思える理由でも、本人にしたら生きるか死ぬかの問題の場合かて仰山あるやろ」


 笑顔でそう言ってくれた雅子に、姿月は心から感謝した。


「しかし何年振りやろ、ノリちゃんとこうして話すのって」

「ごめんなさい、あの時もいろいろとお世話になりながら、ずっとご無沙汰しちゃってて……」

「ええんよ。でもあれやな、ノリちゃんの話しを聞くと、その事務所って後々ヤクザでも使うて難癖付けて来るんちゃうやろか?」

「多分……」

「なら、うちら女だけじゃ勝ち目あらへんから、誰か頼りになる人さがさなあかんな。ちょっと何人か頼りなる人おるから、そん時は任しとき」

「ママにそんな迷惑は掛けられません。これは、アタシが自分で撒いた問題ですから、自分で何とかします」

「ノリちゃん、自分で何でも解決出来るかゆうたら、そうはいかへんのやで。あんたかて本当は判ってるんやろけど、うちに遠慮してそうゆうとるんやったら、それは間違いやで。
 こうして僅かな縁を頼ってうちに来てくれた、それが嬉しいから出来る限りあんたの力になって上げたいんよ。此処で遠慮されたら世話のしがいがなくなるっちゅうもんよ」

「はい……ママ、ほんまにありがとう」


 涙ぐみながら頭を下げる姿月。


「何も泣く事無いやんか。お腹、空いとるんやろ?
 ノリちゃんの好きなかやくご飯でもこしらえようか」


 姿月は、久し振りに自分が本名で呼ばれる事の温かみを感じていた。

 台所に立つ雅子の後ろ姿をぼんやりと眺めていると、携帯が鳴った。

 ……五回、六回…十回。

 漸く携帯を手にし、番号を確認した姿月は、その番号を見て少しばかりホッとした。

 佐伯からだった。


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