光りの中
「あんた、もう舞台に立たれへんとかゆうとったけど、何も劇場だけが踊る場所やないやろ?」

「せやけど……」

「あんたらの世界の事は、よう判らんけど、あんたがやりたいんは、裸になる事やなくて、踊って何かを表現する事とちゃうの?
 たまたまその表現の仕方が、自分の身体を使ってというだけやない」

「うん……」


 雅子の言葉で姿月は全てが救われて行くような気持ちになって行った。


「何でも、物事前向きに考えれば何とかなるもんよ」

「うん……」

「元々、前向きなんは、ノリちゃんの専売特許やろ。」

「そやね……」


 涙で濡れた姿月の顔に漸く笑顔が浮かんだ。


「散々泣いたからお腹空いたやろ?
 昔から、泣いた後はお腹が空くって相場が決まっとるんや」


 それ程歳の差が離れてる訳ではないのに、雅子がまるで母親のように思えて来た。


「ママ……」

「何?」

「此処に来て良かった……ありがとう」

「もう、そんな事言われたら照れるやろ。ご飯、ご飯」


 そう言って再び台所に立つ雅子の後ろ姿を見ながら、姿月は今言われた事をじっくりと考えてみた。


 アタシは舞台をやりたいんや……

 来年の五周年でストリップを引退する……


 前々からそう自分で決めてはいたが、それはストリップから身を引くという事で、何も踊る事迄やめる気は無かった。

 どういう方向に行くかという具体的な計画や進路は、何も決めてはいなかったが、確かな事は、自分はまだ舞台に立っていたいという気持ちがある事だ。

 そこのところは全然ぶれていない。


 表現する場所……

 それをこれから探して行けばいいやんか……


 惜しむらくは、ストリップの世界で、この四年近くの間、ストリッパー『姿月』を応援してくれていたファンに、きちんとサヨナラを言えずに去って行かなければならないという事だ。

 それだけが心残りと言える。

 新たな道へ進むにしても、これ迄の区切りだけはちゃんとしておきたかった。

 姿月は、荷物の中からノートパソコンを取り出し、自分のホームページに書き込みを始めた。





< 90 / 96 >

この作品をシェア

pagetop