光りの中
「佐伯さん、姿月さんが自分のホームページに引退の事を書いてたよ」


 常連客の一人が、わざわざプリントアウトしたものを僕に見せた。

 長い文章の始まりは、応援してくれたファンへのお詫びだった。

 そして、最後の舞台と認識せず、結果的に幕引きの舞台となったあの十一日間の事が書かれてあった。

 二度、三度と読み返した僕は、最後に書かれてあった、


『……一度観てみたいと思っていた本場のカルメンでも観に行こうかと思います。』


 の一文を読んで、


 いつか又、舞台に戻ってくれるんだ……


 と勝手に想像した。

 踊り子が出演予定の劇場に穴を開け、失踪したり、そのまま業界から消えて行くといった事は、別段珍しい事では無い。

 日常茶飯事的な出来事で、その時は大きく噂にはなっても、一ヶ月も経てば遠い過去の話しになってしまう。

 そういう業界なのだ。

 簡単に忘れ去られてしまう業界なのだ。

 真っ当に引退興行をし、多くのファンに見送られて舞台を去って行く踊り子の方が、寧ろ少ないかも知れない。

 自然消滅的に消えて行く者が多い中、彼女の引退はある意味、小さくない波紋を広げたのではないかと僕は感じていた。

 その一方で、観る側の者でさえ、良い踊り子のステージからはストリップを超越した何かを感じ取ってくれるくせに、感動を提供する側が、

 たかが裸踊り、若くて可愛い女が素っ裸になりゃあ客は喜ぶんだ。

 と、客を舐めている事実。

 プライドもへったくれも無い、踊り子をただの道具としか見ない劇場関係者。

 そして、悲しい事に舞台に立つ踊り子達の多くが、そういう考えを肯定している。

 安くない金を払って足を運んで来る客達が、たかが裸踊りと思う分には構わない。

 そう思っている彼等達に、そうじゃないんだと思わせるものを提供すれば、自ずと観る目が変わって行くものなのだ。

 現実に、あの十一日間でそういった出会いを体験出来た者が少なくなかった筈だ。

 そういった客達の間から、自分達で何とか姿月の引退興行をやれないだろうかという話しが出て来た。




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