光りの中
「龍さん、今度の個展に出してる作品の中でちょっと変わった絵があったじゃない……」

「変わった絵?」

「そう、こう両手に大きな羽根を持っている裸の女性のやつ」

「ああ、あれか。あれがどうした?」

「一番先に買い手が決まったよ」

「買い手……」

「そう、それで幾ら位の値段を付けたらいいかなと思ってさ」


 今回の個展を段取りしてくれた友人が、我が事のように満面の笑みを浮かべて龍之助に聞いて来た。


「あれは、売るつもりは無いんだ」

「売るつもりは無いって……。
 そうか、先方はかなり気に入ってたみたいなんだけどなぁ」


「済まないが、どうしてもあれだけは売りたく無いんだ。」

「判った。残念だけど作者本人がそう言うんだから仕方が無いか。
ところでさ、あの絵のモデルって、居るのかい?」

「勿論居るけど」

「何か気になる絵だよなあ。モデルになった女性を直に見てみたいもんだ」

「見れるさ。機会があれば……」

「え?紹介してくれんの?」

「いや、紹介は出来ないけど、何時か機会があれば、あんたも何処かで出会えるかも知れない」

「何だよ、勿体付けちゃって。
 あっ、そうか、モデルは実在の人物じゃなく、龍さんの頭の中で想い描いたもの……つまり、バーチャルって事な訳だな。
 それならそうと早く言ってくれよ。ふぅん……。
 龍さんの趣味が大体読めて来たよ」


 実在の人物さ……

 俺の頭の中から生まれた女性じゃない……

 まあ幻のような人だけど……


 舞台上で観た姿月の姿を思い浮かべながら、龍之助はそう呟いた。


 未完のまま数年間放置されていたその絵が完成したのは、つい先日の事だ。

 今回の個展にぎりぎり間に合った。

 ストリップの世界から一旦消えた姿月と再び出会えたのは、たまたま見た彼女のホームページからであった。

 彼女は踊る事を辞めていなかった。

 あの時と同じ彼女に再び出会えた。

 そして、あの絵を完成させた。

 キャンパスの中でも彼女は光りを求めているような眼差しを見せていた。

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