夏の宵と林檎飴【短編集】
「え、大久保先輩彼氏いないんですか!じゃあ僕が彼氏に立候補します、選んでください!」
__この言葉が、だいたい5ヶ月前。
大山くんに、“彼氏立候補”と言われてから5ヶ月。私が彼に堕ちるには充分な期間だった。
だって、要領が良くて、人当たりも良くて。
たぶん顔も、イケメンと呼ばれる部類のそれで。
そんな彼がずーっと私を口説き続けるから。
…遊ばれてるかも、なんて思いつつ、見事に堕ちてしまったんだ。
「だから、大山くんにはもっといい人がいるって。私にこだわることないから!」
「いえ、先輩がいいんです!…あ、じゃあ。
今度の土曜にある、花火大会。あれ一緒に行きませんか?」
…なんてこった。さすがに今までデートにまで誘われたことはなかったはずなのに。
断らないと。私は彼を諦めるんだから。
彼の方を見上げると、期待のこもった無邪気な目をしていて。
む。わんこ戦法はずるい…!
結局こういうところで意志の弱い私はあっさり頷いてしまい、“詳細はまたLINEしますね!”と去っていった大山くんの背中を見送ることしかできなかった。
もちろん、あずさには
“好きじゃないとか私じゃないとか言ってたのに行くのかよ!”
とか言って、私の使った言葉をわざわざ引用しながら散々馬鹿にされた。
…わかってる、もん。