夏の宵と林檎飴【短編集】
.*・゚ .゚・*.
そして、冒頭に戻る。
花火は川沿いで行われるはずなのに、大山くんが進んでいくのは海の方だ。
ぞろぞろと動く人並みから外れて、だんだん屋台も人影もまばらになって。
そしてついに、完全に2人きりになってしまった。
手は繋がれて、痛くない程度に引かれたままで。
「大山くん?ここからじゃ見れないんじゃ、」
ないの、と言おうとした瞬間、ドーン!という音とともに閃光が飛び散った。
少しだけ遠いけれど、海にも反射して映る花火がこんなに綺麗だと知らなかった。
「わ、綺麗…。」
「ね、見えるでしょ。ここ、兄貴に教えてもらったんです。」
ふわ、と微笑む大山くんにドキッとする。
これは紛れもなく恋だ。
でも、大山くんの“遊び”には乗っちゃいけない。
ていうか、大山くんお兄さんいるんだ。
…ってよく考えたら私、好きとか思っておきながら、大山くんのことを何も知らない。
好きな食べ物、嫌いな食べ物。
好きな動物、苦手な動物。
得意な教科、苦手な教科。
…すきな、ひと。