夏の宵と林檎飴【短編集】
「ねえ、大山くん。好きな食べ物と嫌いな食べ物は?」
「うーん、ハンバーグが好きです。嫌いなのは特にないかも。」
「じゃあ、得意な教科と苦手な教科は?」
「強いて言うなら社会かなあ。苦手なのは数学です。…え、先輩。この質問何の意味が、」
聞きたいと思ったら止まらなくなった。ごめんね、せっかく答えてくれてたのに遮っちゃって。
でもね、大山くん。
私が1番聞きたかったのは、この質問なんだ。
「大山くんの、すきなひとは、誰?」
は、と一瞬彼がフリーズして。
そしてまた、柔らかく笑った。
「大久保、茉由先輩。先輩のことがすきです。ずーっと告白してるのに相手にしてくれないところとか、でもほんとはもう俺のことが好きなところとか。全部かわいい。だいすきです。」
かわいい、とか。
茉由って呼んでくれたこととか。
…だいすき、とか。
言って欲しかった言葉全部を、大山くんはくれた。
ほんとはどこかでわかってた。
彼が、こんな面倒なことをしてくれてるのは、ほんとに私のことが好きなんじゃないかって、思ってた。
でも、言葉にしてほしくて。
「わ、たしも。わたるくんのことが、すきです…!」
最後の言葉は、彼の腕に吸い込まれて消えた。