夏の宵と林檎飴【短編集】
花火が打ち上がり終わって、2人で手を繋いで元の道を戻る。
来た道とは違う意味を持って繋がれた手に、胸がうれしい悲鳴でいっぱいだ。
きゅ、と一瞬握られた手が強くなった気がして大山くんの方を見ると、彼は眉を下げて笑った。
「一目惚れだったんです。先輩、入学式の時にハンカチ拾って届けてくれたでしょ?あれからずっと好きでした。」
ああ、そんなこともあったかもしれない。
だったら、人が困ったこととかを見過ごせなくてつい行動に移してしまう癖を今は褒めたい気分。
それとあと、気になることがひとつ。
「大山くん、一人称変わった?」
「茉由先輩にもう遠慮することがなくなったからいいかなって。“俺”を解禁しました。」
ニコッと笑う彼は、実は相当な策士なのかもしれない。
でもきっともう遅くて、きっと私の行動は彼の思うがままなんだろう。それもまあ、悪くない。
「茉由せんぱーい。大山くん、じゃなくて?」
「…っ、もう当分呼ばない!」
ああもうかわいいなあ、って言って繋いでいない方の手で私の頭を引き寄せて、気づいた時には唇がやさしく奪われていた。
ゆっくり離れた顔。たぶん私の顔は余すところなく真っ赤だ。
「愛おしいですよ、これからもずっと。僕のかわいいかわいい茉由先輩。」
___episode no.1 fin.