再会ロマンス~幼なじみの甘い溺愛~

それより何の用だろう。
テツはまだ仕事なのかな。
電話に出ようとした時、「あの……」という男性の声が聞こえた気がした。
でも、雑踏の中だし私の空耳だろうと判断し、電話に出た。

「もしもし」

『今、大丈夫か?』

「うん。さっき店を出て帰ってる途中だから。どうしたの?」

『そうか。いや、別に用はないけど何となく声が聞きたくなって』

「な、なにそれ。そっちはまだ仕事?」

さり気なく声が聞きたいとか言われ、動揺して素っ気ない態度を取ってしまった。
ホント、こういうのに慣れてないから照れくさいしドキドキする。

『あぁ。最近は定時で帰れることは滅多にないからな』

「大変なんだね。あっ、ごめん。電車の時間があるからもう切るね」

話していて、何気なく駅の時計を見ると電車の出発時間が近づいていた。
別に一本遅らせても問題はないけど、いつも乗っている電車じゃないと変な感じがする。

『そうか、気を付けて帰れよ』

「うん、ありがと。じゃあ」

話し終わって電話を切ると耳が熱い。
何かテツの声が甘さを含んでいるように聞こえるんだけど……。

スマホをバッグの中にしまっていると、誰かの視線を感じた。
周りを見回してみたけど、見知った顔の人はいない。
というか、私のことなんか見向きもしないで駅までの道を急いでいる人やこれから飲みに行くであろう若者の集団が歩いている。
気のせいか。

私は早足で駅まで向かった。
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