再会ロマンス~幼なじみの甘い溺愛~
お客さんにフルネームを教える必要性を感じなかったので苗字を名乗ったけど、紛らわしい名前だから間違えるのも仕方ない。
その後もやたら楽しそうに話しているけど、営業スマイルで右から左へとスルーした。
「また、お店に行きますね。それじゃあ失礼します」
斉藤と名乗ったサラリーマンは軽く会釈して少し離れたカウンター席に座り、飲みかけのビールの入ったグラスに口をつけた。
「ちょっと、あの人なんなの?」
こちらに背を向けて座っているサラリーマンを睨みつけるような視線を送りながらさつきが言う。
「最近、よくお店に来るサラリーマンだけど」
「ちょっとヤバくない?」
「何が?」
「あの人、美桜のことしか眼中になかったよ。私のことなんて見向きもしなかったし」
「そう?確かにめんどくさい人でイラついたけど、あの人はお客さんの一人だし私は興味ないから」
そう言ってジンジャエールを飲む。
今日はノンアルコールだ。
つい最近、お酒に酔って記憶をなくした前科があるので、当分の間は控えようと思っている。
「興味ないって言ってるけど、向こうは美桜に興味津々だったよ。何か目が怖かったから気を付けた方がいいよ。ストーカーかも……。また偶然を装ってバッタリ出くわすこともあるかも知れないでしょ」
「さつきの考え過ぎじゃない?さすがにお店以外で会うことはもうないと思うよ」
あまり深く考えず、笑い飛ばした。