【短】君と、もう少し
「聞かないよ」
「え…?」
「そんなに早く俺の想い片付けないで?これでも、何気に…精一杯な感情だから」
「鳴海先輩……」
「はは。藍沢さんは、真面目だからなぁ…まぁそんな所が好きなんだけど。でもね?自分だけが身を引くなんて…そんなのはだめだよ…。俺は、藍沢さんを困らせたくて…悲しませたくて…好きだなんて言ったつもりは、ないから」
そこまで言うと、鳴海先輩はにっこり笑って、私の手を取った。
「わっ…」
「これくらい、いいよね?」
「せ、せんぱっ…」
「んー…顔真っ赤。可愛い。…遥ちゃん」
「?!?」
いきなりの名前呼びに口をパクパクするだけの私。
それを楽しそうに見つめる鳴海先輩。
「じゃ。遥ちゃん、一緒に帰ろっか」
「〜〜!確信犯!」
「俺得だね」
「んもー!鳴海先輩!」
神様…これを、恋と呼ぶんでしょうか?
それとも、気の迷いとはこのことなんでしょうか?
そんな私のことを、2階の窓から黙って見ていた存在にも気付かず、私は鳴海先輩とわちゃわちゃしながら帰宅した。
それから、何かと委員会があってもなくても、鳴海先輩と放課後を共にすることが多くなっていった。
その間、淳太は私を避けるようになって、今まで以上に女の子達をはべらかすようになっていた。
「わーぉ…お殿様のごらんしーん」
「なにそれ??」
「遥は分かんなくていいの。んもー…あれだけ忠告してやったのに、ほんと馬鹿な男ねぇ」
「ま、舞?」
「いいからいいから、遥は、自分の気持ちに素直でいてちょーだい」
舞の言ってることはまるで何かの暗号のようで、解読不能なメッセージみたいで言うならば魔法のよう。
でも、舞が気にするなと言うならば、そのままにしておこう…そう思って、私はさほど気に留めずにいた。