【完】ファムファタールの憂鬱
それから私は、完全にフリーズした。
なんて言っても、いつもなら我慢に我慢を重ねて家までなんとかくしゃみをしないようにしていたから、外で猫の姿になんかなったことがなかったから。
こういう場合を全く想定していなかったので、無性に心臓が痛かった。
だから、背中にひやりと汗をかく。
…実際はかいてないかもしれないけれど…。
「おー…なぁんだ。にゃんこかー」
がさごそとそこに現れたのは、かなりのイケメン。
一瞬どきんとしたけれど、いや今はそれどころじゃない!と思い直す。
と、その彼はキョロキョロと何かを探してから、私に微笑む。
「今まで見たことなかったなぁー。しかもめっちゃちっちゃい。何、お前迷子?」
きゃー!
持ち上げないで!
てか、抱き締めないでー!
と叫びたくなるのを必死で抑えて…抵抗にならない抵抗をする。
でも、子猫らしくはしなくては…と思い直し。
「にゃ、にゃぁん」
私は、それだけ言うのが精一杯だった。
でも、その声を聞いた彼は優しく私の頭を撫でて、目を細める。
「かーわい。よしよし…いいこいいいこ」
「…にゃー」
気付けば、その手があまりにも心地よくて、そんな風に応えていた。
なんて、手頃なんだ、私というやつは……。