【完】ファムファタールの憂鬱

情報収集と再会



「はぁ……」


それから数日経った今。
なんとか彼の情報を収集しようとして、撃沈。


「はぁー……」


井ノ原迅(いのはらじん)くん…そう、彼の名前は、すぐに分かった。


でも、その他の情報は、まるで謎のベールに包まれているようで、何も入って来ない。


というか、誰にも打ち明けられずに、一人で探そうとしているんだから、情報が入って来ないのは当たり前のことなんだけど。


「は…」

「…静紅、いい加減、ウザい」


何度目かの溜息を吐こうとしたら、少しドスのきいた声で制された。


「へ…?」

「へ…?、じゃないわよ。さっきからなんなの?辛気臭い溜息ばっかりで」


ぷくっと頬を膨らませて怒る花音は、どこから見てもお洒落で可愛い。

ショートボブのブラウンに染めた髪を耳に掛けて、そこから覗く赤い石の付いた大きめのピアスが、とても似合っていて同性の私でさえ、見惚れるくらいだ。


「花音〜…」

「わっ!なに?!ちょっと!いきなり抱き着かないでよ」


そう、嫌がる癖によしよしと頭を撫でてくれる、この心優しい親友に、私はじんわりと涙が出てきた。


なので、意を決して自分の気持ちを彼女に打ち明けてみると……。


「あー…井ノ原くんねー…私知ってるよー?」

と、軽い感じで返事が返ってきたから、思わず身を乗り出して驚く。

「えっっ!」

「ちょ…、煩いって。…てか、そうかそうかー…静紅にもとうとう春がきたかー」

「いやいやいや!春とかの問題じゃなくて!」

「いーのいーの。静紅に好きな人が出来てくれただけでも、お姉さん嬉しいから」

「うー…きみはいつから私のお姉さんに……?」


誰にも言えない秘密は、勿論親友である花音にも言えてはおらず…。


今まで、好きになった人のこともあまり相談出来ずにいたから、今のこの状況を、花音は自分のことのように喜んでくれている。

『ごめんね…』と申し訳ないなと思いながらも、てへへと恥じらって微笑んで見せた。

でも、しっかりと花音から彼の情報を収集する私。


「井ノ原くんは、んー…不思議系男子?無気力系とも言うのかな?凄い独特の雰囲気持ってんだよねー…」

「うんうん、それで?」

テーブルを挟んでいるのに、私の身はぐいぐい花音の方に乗り出す。
花音はそんな私に対して苦笑しながら、知っている範囲のことを教えてくれる。

 
「とにかく、人当たりは凄く良くて人気者ではある。あと…」

「あと…?」

花音はそこで、一旦言葉を区切った。
私は、ごきゅり、と息を飲む。


「生粋の、人たらしらしい…」

「人たらし………?」


花音が放ったその聞き慣れない言葉を反芻しながら、頭の中に彼の情報をインプットさせた…。


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