【完】ファムファタールの憂鬱
「で?」
「は…?」
花音の少しだけ意地悪そうな、何かを企んでそうな顔。
私は嫌な予感がしつつも、短く返答をする。
「だーかーら!…告白するの?しないの?」
「………え〜〜?!…む、無理だよ」
「なんで?」
なんでって、あなた…。
よーく考えてみて下さいよ?
あのイケメンと私がですよ?
釣り合うわけがないじゃない…。
世間に笑われるだけですよー?
そう心の中で呟きながら、下を向くと花音はぐいーっと力いっぱい私の両頬を掴んで前を向かせた。
「い、痛いよ、花音!」
本当に痛いから、抗議するも、花音は至って真面目で…ちょっぴり怖い。
「ほーんと、無自覚なのもここまでくると質が悪いわねぇ。静紅、女は度胸と愛嬌よ!あんたはどっちも足らないから駄目なのよ!いーい?これから1週間、男の子に声掛けられたら、とりあえずは話しなさい。別に誘いに乗れとは言わないから。ね?いいわね?」
「えーー!?…そ、そんなぁ…」
無茶苦茶だ。
横暴だ。
荒行にもほどがある。
私はあまりのことに、それだけ言うと絶句した。
そんなことをしてもし、告白なんか受けてしまったら、どうしてくれるのか…。
けれど、花音はじとーっと私の顔見ながら、死刑宣告のように、こう通達した。
「いーいね?わかった?」
「うう……分かりました……」
それだけは出来ない…と言いたかった。
でも…。
大学入学当初から仲良くなった花音には、何かと助けてもらってばかりだから、実は頭が相当上がらなくて…。
仕方なく…私は泣き泣き、その条件を飲むことになった。
本当に、こんな時可愛い花音は鬼に見える……。
…そんなことは絶対に本人には言えないけれど。