【完】ファムファタールの憂鬱
あまりのことに、周りの目も気にせず、ほんの少しだけ口があんぐりと開いてしまった。
あ、だめだめ。
顔面崩壊寸前。
こんな顔、ジンくんには見せられない。
てか、彼は今私のことを真正面にいるのだから、その時点で既にアウトかもしれないれけど…。
「俺ね、井ノ原迅っていうんだよね。きみは…神咲静紅ちゃん…だよね」
「え、私のこと知ってるの…?」
「…まぁね」
その顔には興味本位ないやらしさも、冷やかしの眼差しもなく…なんだか凄く照れてしまって、私は思わず下を向いてしまった。
そんな私の頭の上からのんびりしたこえが落ちてくる。
「ねー?静紅ちゃん、って呼んでも平気?」
「え?!」
いきなりの高いハードル越えに、ビビる私。
でも、ジンくんはきょんとして小首を傾げたままだ。
「あれ?駄目だった?」
「ぜ、全然大丈夫!じゃあ私は…」
「迅、でいいよ。その方が好き」
まさに、花音が言ってたことが分かった気がした。
この人…本当に。
天然の人たらし…かもしれない…。