【完】ファムファタールの憂鬱
「静紅ちゃん、いつもキャンパス内で困った顔してたから、結構前から気になってたんだよねー…」
ジンくんの周りの視線が、私に集中する。
私の顔はじわじわと赤くなっていく。
「そうかー…静紅サマ…あーいや、神咲さんは個人行動が似合ってるとは思ってたけど…困ってたんだ?」
「えっと……」
下向き加減で言葉を濁していると、ジンくんがそっと手を差し伸べてきて、そのまま私の頭をぽんぽんと撫でた。
「……っ?」
「いいんだよ?…無理しなくても」
その手は、物凄く…泣きたいくらいに優しい。
あの日、子猫の私にしてくれた温もりと変わらなかった。
「あ、ありがとう…」
「ん。じゃあ、今日からよろしくね?静紅ちゃん」
そうして、偶然の再会のその日…。
私はジンくん……井ノ原迅くんと、距離を縮められる幸運をもぎ取った………。
…こんな、モテない私にとってそれは、物凄い前進……だと思う……。