【完】ファムファタールの憂鬱
「俺さぁ、一目でキミのこと"好き"になっちゃったんだよねぇ」
私のことを上から下まで、まるで値踏みをするかのように舐めまわすようにして見つめる、気持ち悪い視線。
少し酒気臭いその言葉は、私には思わず身震いをした。
「…っ!結構です!」
即座にNO!と返事をして、足早にその場を立ち去ろうとするも、なかなかこのそいつはしつこかった。
「いいじゃん、いいじゃん。遊ぼうよ〜」
ぐいっと、手首を掴まれて、私の顔は苦痛に歪んでいく。
怖い。
気持ち悪い。
そんなことより……。
「…ちょっ…ひ、人、呼びますよ!」
「…ちっ。なーんだよ!少しばっか顔がいいからって。お高く止まってんじゃねーや」
私のその言葉に、そいつは心底つまらなさそうな顔をして吐き捨てるようにそれだけ言うと、乱暴に私の手を払い除けて、周りを気にしながら何処かに行ってしまった。
な、なんとか、やり過ごせた…!
私はそう思ってから、ハッとして足早に家へと向かった。
というか、殆ど全速力のダッシュに近い速さで…。