【完】ファムファタールの憂鬱
少しずつの変化
そんなことがあってから、じんくんと私の間に微妙な変化が起きていた。
いうなれば、友達以上恋人未満…というか。
なんとなく…疑似恋愛の延長線にいるかのような。
気を付けないと、錯覚してしまいそうな…距離感。
でも、じんくんはそれを知ってか知らずか…いつもと変わらない。
寧ろ、より甘め…。
「静紅ちゃん、かーえろ」
「うん」
天気が良くて、芝生の上で日光浴をしていた私に、じんくんが声を掛けてくる。
私は笑顔でそれに応えながら、スカートについた芝生を払って立ち上がる。
好きだから優しくしてもらえたら嬉しい。
好きだから傍にいてくれるのが、嬉しい。
だけど、私はいつの間にか欲張りになっていて…、より深くじんくんの傍にいたい…そんな風に思うようになっていた。
じんくんが私だけのヒーローならいい。
じんくんが私のことだけ考えてくれたらいい。
そんな想いが積もりに積もって……この頃は、ほんの少しだけ彼の優しさが痛い…。
「静紅ちゃん、どうかした?」
「…え?」
不意を突いて覗き込まれた、顔。
私は驚いて後ろに身を引きそうになる。
そして、芝生に足を取られて転びそうになるのを、まるでスローモーションのように、ゆっくりとしたフォームで、抱き止められる。
「っ!」
「大丈夫?!」
「う、うん」
ほのかに香ったじんくんのシャツの香りに、心が揺さぶられた…。
あぁ、やっぱり。
私の中でのヒーローは…じんくん一人しかいないんだ…。