【完】ファムファタールの憂鬱
電話越しに、じんくんの勿体ないくらいの優しさに触れていた私は、照れ臭くて顔が赤くなるのを我慢していた。
すると、じんくんはそれを見過ごすことなく声を掛けてくる。
「静紅ちゃん、また、困った顔してる…どうかした?」
「あ、ううん!そんなことないよ?…ただちょっとだけ疲れたなぁって」
そんなことを言いながら晴れ渡る空に向かって、んーっと伸びをすると、いきなりじんくんは自分の方に私のことを引き寄せた。
「…?じんくん…?」
「なんか、ごめん…静紅ちゃんが消えちゃうかと思って…」
つい、手を引いちゃった、と照れるじんくんを見て、なんだか私も照れ臭くなった。
それを、悟られないようにじんくんの背中をぽんぽんと叩いて、笑う。
「あはは。此処でいなくなったらマジックじゃーん」
本当は…一瞬だけ…自分の体が透明になっていく感覚に囚われていたのだけれど…それはじんくんには言えないでいた。
「静紅ちゃんてほんとに不思議」
「それを言うならじんくんもね」
「……ぷ……は…っ」
目を見合わせて、二人で互いのことを不思議だと言い合ったら、凄く可笑しくなって…思わず二人で笑ってしまった。
こういう時間が、もっともっと長く続けば…いいのに…。