【完】ファムファタールの憂鬱
「あ…。静紅サマだ…」
「今日も綺麗だなぁ…」
「あー…話してぇ…」
「ばぁか。お前なんか相手にされるかよ」
キャンパス内を歩いていると偶にヒソヒソと聞こえてくる、声。
…まさか、この私の…ことなんかじゃないですよねー…?
そう思いながら、ちょっとだけドキドキする。
でも、すぐに考え直して、前を向く。
「しずく」なんて名前、これだけ広い大学だもん、私の他にもいると思うし。
何よりも、"綺麗"だなんてそんな言葉は私には似合わない。
そんな風に思って教室を移動するのに、キャンパス内を闊歩していると、後ろから声を掛けられた。
「あ、あの!神咲さん!」
「…はい?」
「…あの…あの…」
あー…この流れはちょっとヤバイかもしれない。
直感的にそう思った私は、にっこり微笑んで、相手にたいしてやんわりと牽制をした。
「ごめんなさい。これから授業があって…」
「そ、そっか。ごめんね。足止めしちゃって」
「ううん。こちらこそ。じゃあ、また」
そう言って、くるりと踵を返す。
ねぇ…?
今、ちゃんと言葉になってたよね?
顔おかしくなかったよね?
少しでも、スマートに出来てたよね??
ドキドキする胸。
これだから、男の子に免疫のないのって、厄介だ。
本当は、周りの皆と同じように、男女問わずわちゃわちゃ楽しく過ごして、色んな思い出を作りたいのに…。
一切モテず、要領も悪い私は、人生の半分以上を損してる気がしてならない。