願い婚~幸せであるように~
「早く帰ろう。ここにいつまでもいては、また顔を合わせるかもしれない」

「はい……」

「お兄ちゃん。和花のバッグ」

「うん、ありがとう」


幸樹さんにバッグを渡したすみれは、私を病室から出すためにだけ付いてきてくれていたようで、駐車場には行かずに売店に向かった。


「園本先生に会うのは初めてだったけど、和花に似ていたな。あ、ごめん。無神経なこと言っちゃって……」

「ううん。私も同じこと思ったから。でも、なんで怖いと思ったか思い出せなくて」


病院から離れたことですっかり平常心を取り戻した私は冷静に体の異変を考えた。

母と父が別れてから父のことを一度も考えなかったわけではない。だけど、離婚の原因も父の人柄も知ろうと思わなかった。

ただ父から私の養育費が送られていて、そのおかげで大学に行けて、一人暮らしが出来たと母からは聞いている。

金銭的な面では影ながら支えてもらっていたが、特に感謝する気持ちは沸いていない。母と父、私と父の間になにかがあったのかもしれない。

今まで考えないようにと避けていたつもりだったけど、心の奥底で意識していて頑なに避けていたのだったら……。
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