願い婚~幸せであるように~
家に招き入れることも、ロビーで対面することもしたくなく、近くのカフェに三人で入った。

マンションを出てから、カフェに到着するまで私たちはひと言も発していない。幸樹さんが手を繋いで歩いてくれたから、なんとか歩みを進ませることが出来た。

ひとりだったら、逃げていただろう。


「突然で悪かったね。幸樹くんの奥さんは、旧姓平原で合っているかな?」


父の向かい側の席に幸樹さん、幸樹さんの隣に私が座った。私の膝に置いていた手が震える。顔を見るとまた恐怖がよみがえるから、テーブルを見ていた。

父からの視線を感じるが、代わりに幸樹さんが答える。


「はい、平原で合っています」

「やっぱり……。和花、大きくなったね。和花には二度と会えない、会う資格はないと思っていたけど、会えてうれしいよ」


うれしい?

私はうれしくなんかない。

会いたくなかった。

今も話をするどころか、顔も見たくないというのに……。


「園本先生。申し訳ありませんが……和花はまだ体調が優れないので、これで失礼させていただきます」

「ああ、そうだったね。疲れているのに、悪かったね。また落ち着いたら、会ってもらえるかな。……ん?」


私は首を横に振った。二度と会えないと思ったのなら、二度と会いに来ないでほしい。
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