願い婚~幸せであるように~
幸樹さんと繋いでいる手に力が入る。父は必死な形相で、ひざまづいた。それから、頭を下げて「お願いだ」と懇願する。

私たちは父を見下ろす。無視して、ここから出ようとしたら出れるが、幸樹さんと顔を見合わせて、私は小さく頷く。

彼に私の意思が通じたようで、ため息混じりに「分かりました」と言い、その場に腰を下ろした。私も彼に寄り添って、座る。


「ずっと和花にはちゃんと謝りたかったが、和花があの日のことを覚えていないと聞いて、何も言わないほうがいいと思っていた」

「あの日のこと?」

「ああ、幸樹くんはもちろん知らないと思う。私が和花の母親と離婚してから、一年過ぎた頃の出来事だから。あの日のことは……」

「和花。和花が園本さんの言うあの日を聞きたくないと言うなら、すぐ帰ろう。どうする?」


ここに来たときから、ひと言も発しない私の代わりに幸樹さんが父と話してくれている。そして、私の気持ちを尊重してくれている。

昔の記憶がないのは、父が言うあの日の出来事が原因なのかもしれない。聞きたくはないけれど、聞いたことで昔を思い出せるかもしれない。

もしかしたら、幸樹さんと昔に遊んだ楽しい記憶も。
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